Opus.92

LPレコードの感想など。

ラファエル・クーベリック指揮イスラエルフィルハーモニー管弦楽団 ベートーベン交響曲第4番変ロ長調作品60

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B面にひっくり返して第4番が始まったとたん、このクーベリックによる異なるオーケストラでのベートーベン交響曲全集録音の企画が、見事に成功しているというのが判る。クーベリック自身のアプローチの基本は同じだが、それを感じ取って演奏するオーケストラ側から出てくる音楽は全く個性が異なる。

イスラエルフィルの丸みがあり厚い弦楽の響きと、非常に積極的な音楽表現は、第1楽章の導入部から主題が出てくるところにかけて堪能することができる。ただ、多彩なクーベリックの意志に忠実にオーケストラが追随しているかというと少し疑問でもあり、このオーケストラのサウンドが持つ魅力がクーベリックの音楽の方向性と必ずしもベストマッチではないことも感じさせる。3楽章はまだ上手くいっている方だが、4楽章の抑揚を強調した表現は、本当にクーベリックがやりたかったことなのかどうかと疑ってしまう。そのため作りすぎ感が出て聴き手が集中力を上手く保てない。ただ、これはクーベリックに限らず、イスラエルフィルの録音に共通する印象でもあり、実際、YOU TUBEで現在のイスラエルフィルを聴くことがあるがやはり同様な印象をもつことが多い。

1975年、ミュンヘン・ヘラクレスザールでの録音。つまり、テルアビブまでクーベリックが出掛けた訳では無いということになる。この企画でクーベリックが各オーケストラの本拠地で指揮をしなかったのは、この録音のみであるが、丁度レバノン内戦が始まった時期でもあり、物理的に困難な背景があったのであろう。

ラファエル・クーベリック指揮ロンドン交響楽団 ベートーベン交響曲第1番ハ長調作品21

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1971年から75年にかけてクーベリックがベートーベン交響曲全曲を全て違うオーケストラで録音した伝説の企画もの。DGG社がこの企画に至った経緯はいろいろと言われているが、やはりカラヤンが存在する中、「配慮した」という説が一番説得力がある。ただ、そうは言ってもこの権利関係が錯綜する現在の時代に、一人の指揮者が世界で超一流のオーケストラ相手にこういった企画をすることはもはやコストがかかりすぎて不可能であろう。その時代にDGG社が持っていた力は大きかったことが推察される。

ともあれ、こうして全集を手にすると、曲毎にオーケストラが違うというのはワクワクする。箱のカタログ番号は2740 155、イギリスプレス。8枚組で、ゆったりと収録している。1枚目で交響曲第1番がA面と第4番がB面にカップリングされている以外は、全て一曲一枚ということになる。

交響曲第1番はロンドン交響楽団。イントロクイズでは無いが、冒頭の響きを聴いただけでロンドンのオーケストラというのが判る。1974年にロンドン北西部にあるブレント・タウンホールで収録。サッカーで有名なウェンブリースタジアムの近くにある。

クーベリックの丁寧な音作りとロンドン交響楽団の繊細な感覚が堂々とした空間を持つ音楽を構成している。クーベリックといえばバイオリンの両翼配置だが、第4楽章の冒頭などでその効果も良く出ている。特に静寂から始まる第2楽章の冒頭は美しく、技巧的である。これでもかというアンサンブルの水準の高さを聴かせる木管楽器群も、ロンドン交響楽団らしいといえる。クーベリックとロンドン交響楽団というのは、レコードマニアには垂涎の的となるバッハとモーツアルトをヴァイオリンのジョコンダ・デ・ヴィートと録音したもの(ASD429)があるが、ステレオ時代になってからのロンドンでの録音活動が意外と少ない(ロンドンで、さあこれからという時にビーチャムにコベントガーデンを追い出されたということもある。まあ、ロンドンというのはそういう街ではあるが。ただ、その後、バイエルンを振ることになり黄金期を迎える。)という印象があるので、この録音のたっぷりとした音楽水準の高さを聴くにつれ少し残念な気もする。

バーンシュタイン指揮ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団チャイコフスキー交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」

悲愴は、このボックスを手に入れて最初に聴いたので、1番から順番に聴いている今回が2回目となる。1回目はそうではなかったが、ここまで続けて聴くと、レニーの楽しみ方が堂に入ってくる。1楽章の冒頭から既に、悲しみに震える心の響きとそれに向き合う強さが激しく交錯し、それを巧みに表現するNYPOの優しく落ち着いた弦楽器の響きに支えられて聴き手を惹き付ける。次々と押し寄せるチャイコフスキーの心の波の重なりを圧倒的な表現力で積み上げ、感動的に1楽章を終える。

予想通り早めのテンポで始まる2楽章。ここでも中低音の輝きは増し、4分の5拍子を精巧に、かつ物語を語りながら組み立てた音楽は聴き手に絶えることの無い発見の機会を与えてくれる。アクセントの印象などは実に上品であり飽きることは無い。最後は、弦を簡素に響かせて終わる。

非常に細かい図柄を丹念に組み合わせたような3楽章。激しく押し寄せる音の圧力に普段は冷静なタンノイもご機嫌。

4楽章は、まるで厚い布地を強い意志で一気に切り裂くような弦合奏で始まる。レニーが握った拳が短く鋭く振られたのが目に浮かぶ。絶妙なホルンに導かれて弦楽の合奏が頂点に向かう様は美しく荘厳でもある。やがて、冒頭で聴いた力は途中、ティンパニや金管低音部を伴い、強弱を繰り返しながらも次第に衰えていき、タムタムの合図とともに、受け入れざるを得ない平穏さに身を委ねて行く。ストーリーテラーとしてのレニーの巧さとその世界観の深さと迫力を感じざるを得ない。

バーンシュタイン指揮ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団チャイコフスキー交響曲第5番ホ短調作品64

同ボックスのチャイ4の興奮がさまやらずそのまま5番を聴いている。冒頭のクラリネットのソロの暗く深い陰影から始まる。全体的に縦横無尽にテンポを操りながらも低音弦楽器の厚さを印象的に使いながら、重苦しいくも暖かい雰囲気を見事に作り上げている。2楽章の冒頭はまさに遠くまで見通せる大海を眺めているような壮大なスケールである。レニーを聴くといつも感じるが、いろいろな情景を聴き手に感じさせる絶妙な距離感を持たせてくれる。彼のオープンな音楽的性格によるものか、語り手として語りすぎるぐらいのサービス精神の表れか?

4楽章に入ると、各楽器の音の置き方がより繊細なものとなり、精神が研ぎ澄まされてくるため、聴く側はその音が置かる瞬間瞬間に引き込まれる。NYPOも、レニーの次の指示がどうであるかは充分に理解しており、演奏に余裕と積極性を感じさせる。

演奏会でこんな演奏を聴かされると、聴衆はたまらないだろう。

バーンシュタイン指揮ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団チャイコフスキー交響曲第4番ヘ短調作品36

ボックスの6枚組、カタログ番号はCBS77605。プレス国の記載が無いが表記、及びリブレットは全て英語。購入はオランダからでオランダ語での価格シールが貼ってあるため、オランダ国内で流通していたのは間違いは無いと思われるが、レーベルにSIAE(イタリア著作権協会)のスタンプを押してあるため、イタリアプレスと思われる。通常のイギリス盤とはレーベルの色や文字フォントが異なり、なんと言っても音の印象が若干異なり軽くふんわりとした感じ。ただ、アメリカ盤のようなギラついた味では無く、音楽の響きを伝える欧州盤である。(後日、第5番についてイギリス盤と比較してみたが、圧倒的にこのボックス盤の方が音の味が出ている。イギリス盤の方は固くて音の響きが貧しいので、レニーの繊細さを味わうには物足りない。)

バーンシュタインのこの全集は、日本盤(ボックスの絵柄はチャイコフスキー1番で単品でイギリス盤としてリリースされたものと同じ)とこのボックスしかまだ出会ったことが無いので、貴重と言える。

第1番から第3番まで流して聴いたが、レニーならではの抜群なリズム感と旺盛な表現力を十分に楽しむことができる名録音という印象で、特に舞踏的な第3番が印象に残った。1970年の大阪万国博覧会のために来日する直前に録音したということだが、当時の若く好奇心に満たされたレニーとNYPOの積極的な音楽活動を感じさせる。

第4番になると、勿論こちらが何度も聴いた曲で馴染みがあるということもあるが、音楽の深みがぐっと増してくる。どうしてもレニー後期のDG録音との対比となるが、全く別の味わいを聴かせてくれる。演奏の速度というよりは、内面的な切り込み方と天井の高い建築のようなたっぷりな空気感と音の厚みの出し方の奏法が違う。この辺り、デジタル録音との違いもあり、アナログレコードならではの充実感でもあり、レニー節をたっぷりと味わうことができる。特に、2楽章などは、まるでレニーの歌である。

 

ハイティンク指揮ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 ベートーベン交響曲第9番ニ短調作品125

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ついにハイティンクのベートーベン交響曲全集も第9に到達。第1楽章が12面に、第2、3楽章が13面に、第4楽章が14面に収められている。
第9の魅力はなんと言っても、第1、2そして3楽章の非常に対照的的であり充実した音楽にある。ハイティンクの研ぎ澄まされた繊細さは第2楽章の躍動するリズム感、さらには丁寧に伴奏を効果的に響かせる。ロンドンフィルの非常に柔らかくしなやかな弦楽器の音色を見事に引き出しており、なんとも言えない高い気品を漂わせる。録音が1976年5月ということで、ハイティンクが同楽団の主席に着任してから10年を超えていることになるが、その充実した関係をうかがうことができる。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリンフィルハーモニー管弦楽団チャイコフスキー交響曲第4番ヘ短調作品36

f:id:Opus92:20160917190507j:plainカラヤンBPOのチャイ4。2530 883、英国プレス版。カラヤン自身6回チャイ4を録音しているがその5回目、1976年でBPOとは最後の録音ということになる。カラヤン、チャイコの後期交響曲ベスト盤として名高い4回目のEMI録音(1971年)と比較して、音の激しさという点では後退している。全体的に音を丁寧に置きながら、音の繊細さを強く意識させる。

ハイティンク、LPOのベートーベン全集を聞き続けた後なので、筋肉質と表現されるBPOの華やかで金管楽器が響き渡る音響効果が印象的に感じられるが、それ以上に英国のオケとの音の違いがやはり面白い。

カラヤン、チャイコのLPを年代別に聴き比べたいがちょっと聴く方も体力が必要で、時間の制約もありなかなか実現できておらず、つい、思いついた時にバラバラと聴くことになってしまう。

とりあえず、バーンシュタイン、NPOの全集を聴き終えるのが先。