Opus.92

LPレコードの感想など。

2016年プロムス音楽祭 サイモン・ラトルとサカリ・オラモ

f:id:Opus92:20160912030559j:plain昨日、9月10日(土曜日)はプロムス音楽祭の最終日。これから長く暗いロンドンの冬かと思うと、暗い気持ちになる。毎年、必ずそうなるが、やはり最後までBBCの放送を見て、日本と比べると非常につまらない花火にハイドパークに集まった人々が歓喜しているのを見てしまう。これも必ずBBCのアナウンサー(Katie Derham)は最後に翌年のプロムスの初日の日付(確か、2017年7月14日と言っていたような気がする)を聴いて、ああ、また来年もプロムスがあって、夏が来るんだと自分を慰める。

そういった毎年の光景の中、一つだけ、エルガーの威風堂々の演奏は非常に素晴らしかった。指揮者のSakari Oramoはそれほど気にしていた指揮者では無かったが、短音符(威風堂々は短音符の塊だが)の扱い方が絶妙で、どちらかというと雰囲気で聞き逃してしまうところだったが、面白かった。BBC交響楽団との契約は2019/2020シーズンまで延長されているようだし、これは聴きにいかねば。バーミンガム市交響楽団の時に行っておけば良かった。

この1週間前、9月3日(土)にサイモン・ラトル指揮、ベルリンフィルのブラームス交響曲第2番の演奏会に行ってきた。会場は当然超満員の熱気で、我らラトルを熱狂的に迎える。BPOの主席として最後のプロムス登場となるが、実は、ラトルとBPOを生演奏で聴くのはこれが初めて。

ラトルは生演奏で生える、というのが恐らく正解なのかも知れないと思わせるほどの呼吸というか、音楽の間が充分にオケに理解されており、長い主席としての存在感を感じさせる。演奏は、相変わらずの玄人肌で、音響劣悪なロイヤルアルバートホールでも、聴かせ方を充分に心得ており、英国オケとの取り組み方の基本的な違いに思いを巡らさざるを得ない。どちらか優れているということでは無く、ドイツと英国のそもそもの違いから来るものであろう。

来年の2017/2018シーズンからラトルがロンドン交響楽団に音楽監督として就任する。すでにロンドンの音楽ホールの貧しさを訴える等、すでに実質的な活躍は開始している感じだが、とりあえず、バービカンで我慢するとしても、いずれにしても楽しみだ。

ハイティンク指揮ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 ベートーベン交響曲第8番へ長調作品93

f:id:Opus92:20160912024137j:plainべー7が良かったのでそのまま8番を聴いている。

音のフレッシュさから言えば7番の方が良く、マイクの配置か何かの録音環境の違いをかなり感じてしまう。全体にこもっている感じで、ハイティンクの鋭敏な感覚を楽しむにはイマイチ。録音年も1976年5月ということで1974年11月録音の7番と比べれば、2年も開いてしまえば、世の中も変わるということかも。

べー8と言えば指揮者のべー8がベートーベンの交響曲の中で一番好きだと言っていた岩城宏之氏を思い出す。当時の私はそれほどこの曲の魅力が理解できておらず、岩城さんの言葉が非常に印象に残っている。

また、ロンドンに着いて英語に苦労している時に、ホームステイしていた家庭のご主人から借りたカセットテープが、ベートーベン8番であった。取るものもとりあえずロンドンに到着した私は、近所の家電量販店で小型のプレーヤ(MATSUI製!で格安だった)を購入、貪るように聴いた覚えがある。なんて素晴らしい明るさの灯った音楽だろうと感激したものだ。それが、イッセルシュテット指揮、ウィーンフィルの名高い名録音だったことは、その後クラシックLPを集中的に取り扱う様になってようやく理解するのだが、8番を聴く度にこのエピソードを思い出す。

 

ハイティンク指揮ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 ベートーベン交響曲第7番イ長調作品92

f:id:Opus92:20160912020058j:plainハイティンクがPHILIPS時代にロンドンフィルと残したベートーベン交響曲全集から、7番。BOXのカタログ番号は6747 307で7枚組LP。オランダプレスで、レーベルは濃いブルー。箱は少し傷みが見えるが運が良いことにLP盤の状態は大変良い。フィリップスはボックスにスポンジのクッションを入れて出荷しているが、数十年経過してそれがボロボロになって細かいゴミとなりレコード盤の溝に入り込み、台無しにしてしまうことが多いが、入手時(2016年6月)でクッションはまだそういった状態では無かった。

ハイティンクをじっくり聞きたいと思っていたので、第1番から聞いていたが、急にメモを残したくなってこのブログを開設。

ハイティンクは不思議な指揮者で、特徴が全面に出てこないので表現が難しいが、恐らくこのセットが彼の演奏スタイルを理解しやすいと感じたのかも知れない。

相変わらず間の取り方に拘りが無くさらったとした演奏だが、特に録音の良さから彼の繊細さが楽しめる。弦楽器の落ち着いた艶のある音に浸かった中で、楽器群の対比を非常に細かい制度で際立たせたハイティンクならではの玄人芸。計算しつくされたといえばそうだが、それにオーケストラが確実についていける棒の裁き方は、関心させられる。

1974年11月の録音なので、1929年3月生まれのハイティンクは45歳ということになる。アムステルダムとロンドンフィルの主席を兼任していたということだが、ベートーベン全集はロンドンフィルが先だったということになる。コンセルトヘボウとの全集は1980年代、デジタル録音になってからということで、少し不思議な気もする。レコード会社の都合?といえばそれまでだが、アナログ録音でロンドンフィル、コンセルトヘボウの両方が残されていればと面白かったのにと、レコード愛好家としては純粋にそう思う。

と思いながら聞いていたらあっというまに4楽章が終わってしまった。