Opus.92

LPレコードの感想など。

ラファエル・クーベリック指揮ロンドン交響楽団 ベートーベン交響曲第1番ハ長調作品21

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1971年から75年にかけてクーベリックがベートーベン交響曲全曲を全て違うオーケストラで録音した伝説の企画もの。DGG社がこの企画に至った経緯はいろいろと言われているが、やはりカラヤンが存在する中、「配慮した」という説が一番説得力がある。ただ、そうは言ってもこの権利関係が錯綜する現在の時代に、一人の指揮者が世界で超一流のオーケストラ相手にこういった企画をすることはもはやコストがかかりすぎて不可能であろう。その時代にDGG社が持っていた力は大きかったことが推察される。

ともあれ、こうして全集を手にすると、曲毎にオーケストラが違うというのはワクワクする。箱のカタログ番号は2740 155、イギリスプレス。8枚組で、ゆったりと収録している。1枚目で交響曲第1番がA面と第4番がB面にカップリングされている以外は、全て一曲一枚ということになる。

交響曲第1番はロンドン交響楽団。イントロクイズでは無いが、冒頭の響きを聴いただけでロンドンのオーケストラというのが判る。1974年にロンドン北西部にあるブレント・タウンホールで収録。サッカーで有名なウェンブリースタジアムの近くにある。

クーベリックの丁寧な音作りとロンドン交響楽団の繊細な感覚が堂々とした空間を持つ音楽を構成している。クーベリックといえばバイオリンの両翼配置だが、第4楽章の冒頭などでその効果も良く出ている。特に静寂から始まる第2楽章の冒頭は美しく、技巧的である。これでもかというアンサンブルの水準の高さを聴かせる木管楽器群も、ロンドン交響楽団らしいといえる。クーベリックとロンドン交響楽団というのは、レコードマニアには垂涎の的となるバッハとモーツアルトをヴァイオリンのジョコンダ・デ・ヴィートと録音したもの(ASD429)があるが、ステレオ時代になってからのロンドンでの録音活動が意外と少ない(ロンドンで、さあこれからという時にビーチャムにコベントガーデンを追い出されたということもある。まあ、ロンドンというのはそういう街ではあるが。ただ、その後、バイエルンを振ることになり黄金期を迎える。)という印象があるので、この録音のたっぷりとした音楽水準の高さを聴くにつれ少し残念な気もする。