Opus.92

LPレコードの感想など。

リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団 ベートーベン交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」

ムーティの抜群のリズム感と芳醇で暖かい弦楽器群の響きがこの演奏の水準の高さを感じさせるが、何分録音の質が悪いため聴き手がイマイチ入り込む感じにはならないのが残念。その分、弦楽器のアンサンブルの妙に冷静に耳を集中させることができる。ムーティの指示は非常に細かく、一つ一つの音の響きの強弱や色彩の変化を微妙につけながら丁寧にかつ精巧に作り上げている。フィラデルフィア管ならではの演奏とも言える。

ただ、繰り返しになるが録音の質が悪く、この録音(1987年)の2年後、1989年5月のサントリーホールでのライブ演奏の方が面白く聴けるのは確か。

ムーティ、英雄といえば、私は2010年にロンドンのロイヤルフェスティバルホールでフィルハーモニア管弦楽団を久々に振ったコンサートを思い出す。何かまとまりに欠け、久々にフィルハーモニー管の指揮台に登場したというイベントとしての意味以外には、それほど印象に残る演奏では無かった。英雄の演奏の前に、ムーティ自らマイクを取ってその頃に死去した楽団員、ジェラルド・ドラッカー(コントラバス主席 享年85歳)への弔辞を述べるなど、以前の良好な関係を意識した演出ではあったが、実質的には既にムーティのフィルハーモニア管弦楽団という色合いは全く無く、以前の同楽団とは全く異なるものであったのに違いない。今や大指揮者となったムーティへのフィルハーモニア管のラブコールは判るが、ムーティの復帰は無いな、と感じさせた。どちらかというと2017年からサイモン・ラトルが音楽監督となるロンドン交響楽団を客演で指揮する方が魅力的で興味が湧くと感じる。

Philharmonia Orchestra 65th Birthday Gala Concert | Southbank Centre

https://www.ft.com/content/d0b02c24-3e73-11df-a706-00144feabdc0

Beethoven: Joshua Bell (violin) Philharmonia Orchestra, Ricardo Muti (conductor) Royal Festival Hall, London 30.3.2010 (GD)

 そういえば、ムーティはフィラデルフィア管の後、もう30年近くもベートーベン交響曲全曲の再録音を行っていないことになる。是非ウィーンフィルと(少しはまともな録音、できればアナログ録音で)やってほしいものだ。