Opus.92

LPレコードの感想など。

エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団 ベートーベン交響曲第2番ニ長調作品36

第2番になると急に音の輪郭がはっきりとしてくる。聴く方の耳がRCAの音に慣れてきたのかも知れないが、少なくとも第1番とではマイクのセッティングが異なるようだ。ボストン交響楽団の表現力の強さというか確実な音への当たり方をラインスドルフが的確に演出しており、演奏レベルの高さを満喫できる。

音楽の流れの方向とその強弱を柔軟にコントロールするのがラインスドルフの曲作りの特徴の様だ。確かに、絶妙な間というか、時間的な出し入れはあまり感じないが、瞬発性や弾力性を非常に重視している。指導は辛辣であったと言われるがそれを充分に感じさせる徹底した音楽表現で、感傷的な表現を好む日本人向きでは無いかもしれない。実際、緩徐楽章である2楽章も、決して甘ったるい表現では無く、特に弦楽器の音は相当にコントロールされている。

第4楽章に入ると音の活力がさらに増してきて、深みが出てくる。第4楽章だけ2枚目のLPに収録されているので、ひょっとしたら、プレスによる違いなのかもしれない。RCA盤は謎が深い。

エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団 ベートーベン交響曲第1番ハ長調作品21

ボックスカタログ番号はSJA 25 041-R/1-7。RCA,ドイツプレスの7枚組。1962年から1969年にかけて録音したベートーベンの全集。中古レコード市場であまり見かけることは無い。

1970年のベートーベン生誕200年という、いわゆるベートーベンイヤーに合わせて録音したということのようで、ルービンシュタインとのベートーベンピアノ協奏曲全曲録音もその一環とのこと。実際、ラインスドルフのボストン音楽監督は1969年までだが、実際には1970年12月17日が最後の指揮だったと記録されており、関係が最後まで良好であったことを伺わせる。

全体にリズム感に特徴があり、独特の刻み方を聴かせる。音楽は新鮮な切り出し方で軽快に進行する。もう一度聴きなおしてみたが、弦楽器の弾け方のうま味がさらに理解できるようになり面白い。ボストン響の暖かい木管楽器に包まれて心地よい。

RCA盤で鳴らせ方が難しく、欧州大陸プレスらしく若干曇った響きがあるため耳が慣れるまで時間がかかる。英国プレスと比較したいところだが手元に入手しておらず不可能。

 

 

カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 モーツアルト交響曲第29番イ長調K201

ボックスカタログ番号は2740 268、3枚組で西ドイツプレス盤。

ベームがベルリンフィルとモーツアルト全曲を録音したのが1959年から1968年にかけて。その後1976年から1980年の晩年にこのモーツアルトの録音をウィーンフィルと残した。比較されることが多いが、全く別の録音環境や条件であり、どちらがどうということは無い。

冒頭から実に美しくとろけるようなウィーンフィルの音を堪能できる。1980年6月録音でデジタル録音では無いところにこの録音の価値があり、それをレコードで聴くことができる喜びがある。(1ヶ月前の5月にロンドン交響楽団と行ったチャイコフスキー交響曲第5番は、デジタル録音である。)豊かな響きとたっぷりとした空間を余すところなく捕らえており、絶妙な表情の変化がゆったりとしたテンポの中で繰り返される。

なお、あの昭和女子大学人見記念講堂での最後のベームの指揮が1980年10月なので、そのイメージとの違いも驚かされる。ライブとセッション録音との違いということが大きいとは思うが、この6月から10月までの短い間にベームの求める音楽がまた少し違ってきたのかもしれない。このモーツアルトの録音で見せたウィーンフィルの余裕のある音楽とはことなり、人見での演奏にはどこかしら手探り感がある。

ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団 ベートーベン交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」

いよいよこの全集も最後。1975年1月のミュンヘンでの録音。手兵バイエルン放響で第9をあてたDGG社、クーベリックの期待度はもちろん、聴き手も期待度が大きいのだが、どうも録音条件が上手く設定されておらず、バランスが悪い。マイクの配置に問題があるのだろうか、各楽器群の聞こえ方にまとまりを欠き集中力を散漫にさせてしまう。

演奏は、全体を纏めて機敏さを出すために敢えて重厚さよりも機能的なものを要求しているような感じでもある。何かCD時代の音の創り方みたいに聞こえる。

スタンダードで見本の様な演奏と言った世評もあるようだが、クーベリックの演奏はそもそもスタンダードでは無く、色濃い個性を持ったものであるはずだが。

ふむ、こちらの聴き方が悪いのか。また、後日、再度聴いてみようと思う。

ラファエル・クーベリック指揮クリーブランド管弦楽団 ベートーベン交響曲第8番ヘ長調作品93

1975年3月にクリーブランドにて録音。この全集を通して感じるクーベリックの時間の使い方が、この録音ではガラッと変わっており非常に面白い。ベートーベン8番へのイメージがそういった軽快で明るいものであり、クーベリックの変幻自在なところが感じ取れる。特にティンパニのインパクトが強く、マレットも堅いものを使っており、マイク配置もそれを考慮されたのかもしれないが、オケ全体に室内合奏団による演奏のような機敏さを持った雰囲気でもある。やはりベートーベン8番といえば、イッセルシュテット、ウィーンフィルの録音を思い出すが、傾向としては似たようなものがある。ウィーンフィルのような欧州的な気品や華やかさではなく、あくまでアメリカ的な機能性を帯びているが、それはそれで楽しめる。パリ管との6番といい、この録音といい、クーベリックの人柄、とくにオーケストラとの対峙の仕方が色濃く出ている。

クリーブランド管弦楽団の1975年といえばセルが去り、マゼールに既に移っており、引き続き素晴らしいサウンドを披露していた時代。客演となる65歳のクーベリックにとっても、一世代下の指揮者が主席となる同楽団を時代の変化を感じながら指揮ができる意義深い訪問となったのではないだろうか。1973年にはスイス国籍を取得しており、老後?の活動に差し掛かったはずのクーベリックだが、1989年の民主化で再びチェコに戻ることなど想像さえしていなかったであろう。

 

 

ラファエル・クーベリック指揮ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 ベートーベン交響曲第7番イ長調作品92

1974年9月、ウィーンでの録音。クーベリックが1970年にミュンヘンで録音したバイエルン放送交響楽団の同曲の録音を愛聴する私にとってみれば、非常に興味深い。クーベリックの音楽解釈が大きく異なるとは思えないが、それを受け取る側のオーケストラのスタンスの違いが如実に出ていると思える。

マーラーとの全曲録音が進んでいたバイエルン放響とはお互いに知り尽くされた仲であり演奏に一層の積極性が感じられて、それが集中力感や、ぞくぞくとするようなテンポ感が出ており4楽章の表現力は全くもって圧倒的である。一方のウィーンフィル盤は、アプローチが全く異なり、クーベリックの表現を丹念に解釈して確実に表現する職人感が出ている。音の響きはウィーンフィルそのものであり、堂々としてかつ繊細であり2楽章の冒頭からの弦楽器の重なり方は実に静香で美しくしなやかである。音楽の聴かせ方が違うという感じだ。ただ、ウィーンフィル側にちょっとした過剰な緊張感があるのは確かで、それが演奏スタイルにプラスアルファの影響をしているような気がする。

あまりにもバイエルン放響との演奏が素晴らしいだけに、いろいろとDGG社との契約を含めたいろいろとした詮索も、LP時代の背景を探る上で面白いが、結果論的であり、実際の録音現場では、少なくともクーベリック自身には、そこまでに意識があったとは感じられない。

ラファエル・クーベリック指揮パリ管弦楽団 ベートーベン交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」

1番から聴いてきたこのボックスも6番まで来ると後半に入ってクーベリックの世界にどっぷりとなってくる。

1973年1月パリでの録音。サウンドとして新鮮で、充分な響きを印象的に残す。細部の構造まできっちりと独特の時間軸で表現する音楽を、聴く方はじっくりと味わうことができる名演といえる。実は私はあまり田園を聴くのは得意では無い。表題音楽として魅力的だが、それほどオケによって私が望むほどの特徴というか違いがくっきりと出ないような気がするが、さすがにこの演奏はそういった面でも味わい深い。レコード時代としては珍しいパリ管弦楽による色彩豊かなベートーベン交響曲の録音ということもあるが、サル・ワグラムのなんとも香ばしい実りのある響きが非常に心地よく嬉しい。