Opus.92

LPレコードの感想など。

ラファエル・クーベリック指揮クリーブランド管弦楽団 ベートーベン交響曲第8番ヘ長調作品93

1975年3月にクリーブランドにて録音。この全集を通して感じるクーベリックの時間の使い方が、この録音ではガラッと変わっており非常に面白い。ベートーベン8番へのイメージがそういった軽快で明るいものであり、クーベリックの変幻自在なところが感じ取れる。特にティンパニのインパクトが強く、マレットも堅いものを使っており、マイク配置もそれを考慮されたのかもしれないが、オケ全体に室内合奏団による演奏のような機敏さを持った雰囲気でもある。やはりベートーベン8番といえば、イッセルシュテット、ウィーンフィルの録音を思い出すが、傾向としては似たようなものがある。ウィーンフィルのような欧州的な気品や華やかさではなく、あくまでアメリカ的な機能性を帯びているが、それはそれで楽しめる。パリ管との6番といい、この録音といい、クーベリックの人柄、とくにオーケストラとの対峙の仕方が色濃く出ている。

クリーブランド管弦楽団の1975年といえばセルが去り、マゼールに既に移っており、引き続き素晴らしいサウンドを披露していた時代。客演となる65歳のクーベリックにとっても、一世代下の指揮者が主席となる同楽団を時代の変化を感じながら指揮ができる意義深い訪問となったのではないだろうか。1973年にはスイス国籍を取得しており、老後?の活動に差し掛かったはずのクーベリックだが、1989年の民主化で再びチェコに戻ることなど想像さえしていなかったであろう。