Opus.92

LPレコードの感想など。

エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団 ベートーベン交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」

今年のロンドンは12月に入って少し暖かくなってきた。折角の土曜日だが雨が続いており、午前中は毎年恒例の日本食材店のセールに繰り出したが、午後はイマイチ外出する気にもならない。冬至も近づきますます暗くなってきておりレコード鑑賞には充分な環境だ。

5番が終わって、またすぐに田園がはじまってしまったので、引き続きいて聴いている。レコード盤への曲の収録のされ方がちょっと雑だが、全集ものというのはこういうもの。ただ、ラインスドルフの演奏が続けて聴くことができるような簡素でかつ魅力的な演奏であるとも言える。

1楽章からラインスドルフ的な予想外のテンポや音の重ね方が続くが、6番まで聴いてくるともう驚くことは無くなり、逆に意図する音楽の外枠にきちんと音をはめるボストン交響楽団の巧さをさらに堪能するようになっている。相当良好な関係があったのだろうと推察することができる。どうも聴きこまないと良さが判りにくい指揮者のようだ。

2楽章になると弦の響かせ方の妙に耳が行く。弦のボーイングに細かい指示が行き渡っている様が判るようで、ちょっとした短い音符に輝きを持たせている。

3楽章になるとラインスドルフ節ともいえる、一見そっけないようで、実際には強固な音楽構成に基づいた音楽が展開されて、4楽章にそのまま突入する。こういったテンポが速い部分でラインスドルフらしさが強くでるところが、なかなか他の指揮者では体感できない面白い部分でもある。曲の展開に聴き手がどんどんと引き込まれていく感触である。

5楽章では、第1主題が出てくるまでのバイオリンの細かい音の動きが絶妙でそのリズム感が巧妙に仕組まれている。その後の曲の展開はまるで次々と新鮮で体感したことのないようなリズムが出てくるので、田園の終楽章の未発見な魅力を存分に引き出している。

考えてみれば、ボストン交響楽団がベートーベン交響曲全集をきちんと全曲ステレオでセッション録音したのはこのラインスドルフしか過去に無いのでは無いか?

エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団 ベートーベン交響曲第5番ハ短調作品67「運命」

第4番に続けて、レコード盤を替えることなく第5番の1楽章が始まったのでそのまま聴いている。非常に冷静であくまで音の純粋な響きを聴かせる。特に、劇的な盛り上げ方をする訳でも無く、淡々と音楽が進むのではあるが、それは間違いなく語りかけてくるような歌であり、何故かラインスドルフのファンになってしまっているような心持ちがする。

2楽章になるとその歌の魅力はさらに広がり暖かく心地が良い。 3楽章ではラインスドルフの絶妙な技が発揮され、特にコントラバスとチェロのトリオでは抜群の運動神経を見せる。第4楽章では、予想通りかなりあっさりとした仕上がりにしならも、輪郭を丁寧に起こしており統率された迫力を存分に聴かせてくれる。トスカニーニ的とも言える。

エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ボストン交響楽団 ベートーベン交響曲第4番変ロ長調作品60

長い間、ムーティ、フィラデルフィア管の全集を聴いていたが、久々にラインスドルフの録音に戻ると、ムーティのEMIの録音の悪さが余計に感じられる。確かRCAの録音状態も良い訳では無かったはずだが、非常にまともな録音に感じられる。

ムーティと比べて、同じアメリカのオーケストラだが、響きはかなりドイツ的でもある。全体的に間延びの無い淡泊とも言える音使いだが、それが軽快で面白い。若いムーティの突き進むような軽快さとは全く異なり、音の処理の仕方に独特の意思の強さがあり、ラインスドルフ的なベートーベンを感じることができる。

ボストン交響楽団の響きはやはり美しく落ち着きがある。これもフィラデルフィアの鮮やで多彩な色彩感覚とは全く趣が異なり、これも愉快である。私は、欧州的な響きを持つボストン響の方がしっくりとくる、というか安心感がある。例によって1楽章の主題部分など予想外なテンポが時々現れるが、極端に不自然ということでは無く、逆に意外と丁寧に隅々までボストン響を鳴らしており、音楽構築も、全ての柱や梁をはっきりと目で確認できるようであり、実に玄人好みの演奏する指揮者と感じる。1966年録音。

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リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団 ベートーベン交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」

1988年の録音。音楽の構成が素晴らしくムーティの音楽解釈の巧さがよく出ている。明快なリズム感とそれに追随する弦楽器群とティンパニの絡みは1、2楽章ととても面白く飽きさせない。第3楽章の弦楽器の美しく時間をたっぷりと蓄えた響きは期待通りで堪能できる。

第4楽章の前半のオーケストラ部分も引き続き素晴らしいが、やはりテノールから始める合唱部分はその歌手陣の実力もあり、エンジンがさらにかかってくる。合唱の重ね方が絶妙で美しく響かせる。

EMIの録音状態に問題があったベートーベン全集ではあったが、やはりムーティとフィラデルフィア管弦楽団の充実ぶりを体感するには充分な内容であったと言える。

リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団 ベートーベン交響曲第8番ヘ長調作品93

相変わらず録音がイマイチではあるが、ムーティ的な音楽が満載となっており、この曲の明るさと、複雑さとの相性が面白い。かなり野心的な演奏でもあり、音の密度がかなり濃く出ている。特に低弦部分を充分に鳴らせておりフィラデルフィア管ならではである。緊張感を充分に維持しながらも、軽快なリズムを前面に押し出しながら全体を構成しており、聞き所は満載となっている。

リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団 ベートーベン交響曲第7番イ長調作品92

ムーティの冷静に隅々まで計算しつくされた音楽への意識は、冒頭から強く感じられる。フィラデルフィア管もそれに時間的余裕を充分に持ちながら対応しているところに当時のレベルの高さを伺うことができる。

圧巻の第1楽章に続き、第2楽章の弦楽演奏の微妙な音の揺れ具合などは美しく劇的でもある。ただ、特に第3楽章では全体的にはリズムが軽く流れすぎるように私には感じられ、それが全体の構成上釣り合いが上手く取れていないように感じられ、集中力を持って聴くことができなかった。

一転、第4楽章ではオーケストラの活力が復活しており、録音日が異なるのでは?と思われる。音の採り方や味付け方も異なるようにも聴き取れる。 

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リッカルド・ムーティ指揮フィラデルフィア管弦楽団 ベートーベン交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」

フィラデルフィア管の重低音の快い響きと充実した音楽の流れが感じられる。1987年の録音ながら新鮮な雰囲気を感じさせるところがムーティらしい。特に柔らかい響きをポンと置くようなタッチは独特である。なかなかこの曲を面白く味わせてくれる録音に出会うことが無いだけに嬉しい。明らかにドイツ系指揮者とのアプローチとは異なり、背景となる画面の穏やかな明るさが印象的である。この曲に関してはEMIの録音状態も良いようだ。

第1楽章に続いて豊かな響きを蓄える第2楽章と美しい演奏は続くところは絶妙である。第3,4楽章ではそういった良さを感じることが少ないが、第5楽章になると再び弦楽器群の美しいハーモニーを満喫することができる。緩徐楽章に強い個性を発揮している、あるいは聴き手がそれを理解しやすいことが判る。

あと、第2楽章終わりのフルートとオーボエの掛け合いや、微妙なフルートのトリルの変化は、妙の極みと言える。